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企業再生3つのステップ 適切なタイミング・期間について解説

以下の記事で、企業再生手法について解説しましたが、危機的な状況に陥っている企業を再生する場合には、セオリーとも呼ぶべき適切なステップを踏んでいく必要があります。

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この記事では、企業再生の基本となるステップとタイミング・期間について解説していきます。

企業再生手法・3つのステップ

再生戦略においては、いきなり売上を増加させることを目指さずに、まずは足元の財務状況改善をして、その後事業体質の改善を実施し、最後に成長力の回復をさせるのが常道となっています。これは、破綻した企業だけでなく、破綻に近い企業でも同じです。

一般的なステップ

1.財務状況の改善 ⇒ 2.事業体質の改善 ⇒ 3.成長力の回復

ステップ1.財務状況の改善

まずは、財務状況の改善により危機的状況から脱出する必要があります。

■追加融資(たとえばDIPファイナンス)の獲得
■負債の圧縮
■資本の増強

まずはこれらの策により短期的な資金繰りを改善する必要があります。

ステップ2.事業体質の改善

危機的な状況を脱したのちに、事業体質の改善を図ります。特にすぐにでもできるコスト削減策があれば、早めに手を打って、無駄な資金の流出を防ぐことに専念します。

■コスト削減
一般的にコストの中で高い割合を占めるのが人件費です)

■資産の圧縮
売掛金や棚卸資産の圧縮により資金繰りを改善します

■コア事業への集中
特にノンコアと位置づけた事業を早めに換金することで資金繰り改善につながります

■事業プロセスの改善
サプライチェーン・業務体制の効率化

ステップ3.成長力の回復

短期的な機器を脱出し、定常的にキャッシュフローをプラスにできる事業体質にしてから売上拡大へと進みます。このステージになってはじめて、R&Dや営業力強化、設備投資などを積極的に進めていきます。

企業再生をするのに適切なタイミング

企業再生を始める適切なタイミングは、業績が悪化の一途をたどる前ということになります。それは往々にして、まだ業績的に問題には見えない状態なのですが、多くの企業はこのタイミングを逸します。そしては、一般的には企業再生を始めるのが手遅れのケースという大変多く、実際は一度破たんをさせてから再生に取り組まざるを得ないケースが多くあります。

再生初期の場合、社員(もしくは経営幹部)は危機感を抱かない上、目先の既得権益にしがみついてしまい、下手に再生しようとすると、彼らが抵抗勢力になってしまうため、再生がうまく進まないケースが多くあります。人間誰しも、現状が安住の状態であれば(に見えれば)、それを無理に変えようとはしないからです。

実は、客観的に財務状態を見れば、やばいというのはわかるにもかかわらず、手を打てずに落ちぶれていくのは、上述のように、内部人材が再生に向けて動こうとしないケースがほとんどなのです。

しかし、凋落初期では、再生が難しい一方で、どん底まで行くと再生に向かう力は一気に大きくなります。たとえば、2010年のJALのように、法的整理になると、社員を再生に向けて動機づけるのは簡単です。それは、社員がマスコミ報道を見て、嫌が上にも危機感をもつからです。

また、日産も、すでに90年代後半にはかなり厳しい状況に陥っていましたが、社員が本格的に危機感を抱いたのはルノーとの提携や、ゴーン氏の就任のタイミングなのです。

再生をするのに必要な期間

初期症状の段階で、将来的な危機に気付いて、手を打ってうまくいっているケースも多くあります。そういう企業は、ゆっくり着実に改革を進めて成功しています。

一般的に再生に与えられた猶予は、

キャッシュが枯渇するまで

です。

先の日産の例で言うと、ゴーン氏が3年間のプランを掲げたのは、改革前の財務状態が継続したとすると3年でキャッシュが底をつくという見込みがあったからです。

初期症状の場合、キャッシュ枯渇までにはまだ時間があるので、ゆっくり、じっくりと再生を進めてもよいわけです(逆に早く進めようとすると必ず抵抗勢力の反発にあいます)。

このケースで有名なのは、スルガ銀行です。一介の地方銀行でしたが、都市銀行に対して勝ち目無しと見て、リテールに重きを置く戦略をとり、その戦略を長きにわたって実行できるように、長期的な視野で若手の育成に取り組みました。

(2018年10月27日追記)

上記のように健全に経営できてきたスルガ銀行でしたが、2018年5月にシェアハウス事業への融資問題が取りざたされてしまいました。破綻に至るようなインパクトではないですが、社会的な印象を悪化させる出来事ではあります。