ファイナンス

企業買収M&A【8つのプロセス】

M&Aをする際には、どのようなプロセスが踏まれるのでしょうか?

私もかつてM&Aで買収する側の経験をしたことがありますが、そのプロセスはある程度は標準化されています。

この記事では、一般的なプロセスと、各プロセスでどのようなことをするのか、必要となるファイナンス理論も交えて概要を解説していきます。

ステップ1.ターゲット企業の選定

まずはM&Aのスタートは、会社の事業戦略に基づいたターゲット企業の選定です。

この段階では、M&Aをしかける企業内の経営企画、事業部門が中心となって決定します。(会社によってはM&A担当部門が参画します)

このように買い手がを候補を見つけるパターンの他に、売り手の方から案件が持ち込まれる場合もあります。

ステップ2.対象企業の情報収集

対象企業が決まったら、次に対象企業に関する詳細情報を集めます。

この段階になると、社内スタッフの情報収集能力やファイナンス知識だけで進めるには限界があります。

そこで、社外のファイナンシャルアドバイザー(FA)を入れることになります。

ステップ3.対象企業の簡易価値算定~基本合意

必要な情報収集が集まったら、簡易な企業価値算定をして買収価格のあたりをつけます(この際にシナジーについても簡易計算します)。

この段階では、上下限のレンジを決めて交渉に応じます。

入札形式で法的拘束力のない1次ビッドがある場合は、ここまでの算定価値をベースに入札に応じます。

このフェーズでは、DCF法で細かく見ずに、マルチプル法(PEREBITDA倍率など)で計算することも多いです。

ここで、売り手側と次のステップに進むことが基本合意できれば、本格的な価値算定作業に進みます。

ステップ4.対象企業の本格価値算定

大まかな企業価値の算定により売り手と基本合意できたら、本格的な交渉と詳細な価値算定に入ります。(入札形式の場合は、入札の結果、優先入札者となってから交渉となります)

この段階では、買収側企業では、経理部門や法務部門が入り、社外スタッフとして会計士、税理士、弁護士などが入ってきます。

また、売り手からは買収対象企業に関する資料(IM:Information Memorandum)を渡されます。

ここではDCF法がよく使われます。

また、買収が生み出す価値となるシナジー効果の算定も必要です。

ステップ5.必要資料の請求とマネジメントインタビュー

価値算定作業の中で、IM(Information Memorandum)にある情報だけでは十分な判断ができない場合があります。

その場合は、相手方のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を通じて質問を投げかけ回答してもらうというプロセスがとられます。(通常は1日ごとにでてきた質問をQ&Aリストに追加する形でやりとりが行われます)

Q&Aのやりとりとは別に買収対象企業のマネジメントに対してインタビューも行います。

これにより、強み・弱みや今後の展望、事業上のリスクを明らかにしていきます。

また、マネジメントインタビューには、マネジメントの心証をよくすることで、必要な情報開示をスムーズにしてもらう目的もあります。

ステップ6.価格の決定・最終契約・クロージング

最終的に価格決定して、契約締結・クロージングとなります。

詳細の価格決定プロセスは買収価格の決定プロセスを参照ください。

その際にシナジー効果をどう配分するかも大事な論点になります。

買収価格が決定したら、M&Aにかかる契約書(SPA※)を作成し、買収にかかる資金を調達するなどの作業が行われます。

※SPAとは

Share Purchase Agreement(株式譲渡契約書)またはSelling and Purchace Agreement(株式売買契約書)を意味します。

SPAには、表明保証条項(※)というものが盛り込まれのが一般的です。

※表明保証条項とは

契約締結、またはクロージング時点において、その取引に関して提示された情報に関して、その情報が真実であることを保証する条項のことです。

単に表明保証とも言います。

この条項によって売り手の情報(買収対象会社の財務状況、債務状況、訴訟状況など)が真実であることを担保されます。

一般的に、表明・保証違反があった場合、相手方(M&Aにおいては買い手側)は契約解除、損害賠償請求などが可能になることを条項に盛り込みます。

ステップ7.PPA(取得価額再配分)

株式譲渡が行われた後に、取得した会社の資産をバランスシートにどのように計上するかを検討します。

これをPPA(取得価額再配分)と言います。

PPAは、Purchase Price Allocation(パーチェスプライスアロケーション)の略です。

バランスシートへの計上は、M&Aのディール終了後(SPA締結後)に行われますが、実務においては、のれんの償却などをいち早く算定して、M&Aの実行判断とするために、ディール終了前から計上方法について議論がなされます。

※PPA対象となる無形資産の例

販促関連: 商標、インターネットドメインなど

顧客関連: 顧客リスト、顧客との契約など

ロイヤリティ関連: フランチャイズ

ステップ8.M&A後の統合(PMI)

M&A後の統合(以下PMI: Post Merger Integration)で重要になってくるのは、シナジーの創出です。これは事前に算定したシナジー効果が目標になります。

もし、買収金額にシナジーを上乗せしたにもかかわらず期待していたとおりのシナジーを出せなかった場合、買収した側の会社の価値が大きく毀損される結果になってしまいます。

シナジー効果の発揮には、PMIにおけるさまざまな機能や制度の統合がスムーズに行われる必要があります。

理論上シナジーが出せるはずでも、M&Aをしかけた会社と対象会社との間で円滑なコミュニケーションを図れる体制を作れなければシナジー発揮が難しくなるからです。

まとめ

環境変化の激しいビジネス環境においては、誰もがいつM&Aプロジェクトに巻き込まれるかわからない状況です。

実務上は、こうしたプロセスは、社内のM&A専門部署か、コンサルティングファーム、証券会社などが中心に進めていくものの、ビジネスパーソンとして、プロセスの概略を理解しておくことで、専門業務+αの価値を生み出すことにつながっていくのではないでしょうか。

企業買収をもっと知りたい方は