ファイナンス

DCF法の活用方法【3つの事例を解説】

プロジェクトで投資に対する評価方法にはさまざまなものがありますが、代表的なものとしてDCF法があります。

では、DCF法を使うと、具体的にどのように評価できるのでしょうか?

この記事では、DCF法を使ってプロジェクト(以下PJ)の投資・リターンを比較し、評価する方法を紹介していきます。

事例1.3つのプロジェクトを比較する(投資額、回収額が同じ場合)

次の3つのPJを比較します。

  0年目 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
A -200 70 70 70 70 70
B -200 100 100 70 40 40
C 0 -200 150 100 60 40

マイナスは、投資額を表し、プラスは投資によって得られるキャッシュになります。いずれも投資額は同じで、回収する総額も同じです。数字だけ見ると、どれでも同じになりますが、DCF法で評価する上では、

すべて現在価値に直して考える必要があります。

ここで、割引率を6%として、各PJのキャッシュの現在価値(NPV)と内部収益率(IRR)を求めると次のようになります。

NPV(A) = 95    NPV(B) = 104    NPV(C) = 106
IRR(A) = 22%    IRR(B) = 28%    IRR(C) = 36%

この場合は、NPVの観点からもIRRの観点からもCが一番よいPJということになります。

AとBは、同じタイミングで投資しているので、キャッシュ回収の早いBの方がよいということは直感的にわかりますが、Cは支払いのタイミングまでずれているので、直感だけではわかりにくいPJです。こういうときにDCF法を使って評価すると、一目瞭然で結果を判断することができます。

このDCF法からは、キャッシュは同じ額であれば、早く回収すればするほどよく、遅く出費すればするほどよいというがわかります。

事例2.購入とリースの比較

上の事例では、A、B、Cいずれも投資をした場合の比較でした。次に、同じ設備に対して、投資をして購入した場合と、リースをして借りた場合の比較をします。

設備の購入額は4500万円で、リースだと年間1000万円とします。設備の耐用年数は5年とします。金額の大小だと4500万円のほうが有利なように感じますが、ここでも支出を現在価値に直して考える必要があります。また、支出には節税効果がありますが、その際の税率を50%と仮定します。

購入の場合(単位:万円)

0年目 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
購入(A) -4,500          
減価償却(B)   1,661 1,048 661 417 263
廃棄損(C=B累計-A)           450
節税(D=B/2+C/2)   830 524 331 209 357
CF(A+D) -4,500 830 524 331 209 357

リースの場合(単位:万円)

0年目 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
リース(A) -1,000 -1,000 -1,000 -1,000 -1,000  
節税(B=-A/2)   500 500 500 500 500
CF(A+B) -1,000 -500 -500 -500 -500 500

このケースでは、割引率を6%とすると、NPVはそれぞれ次のようになります。

 NPV(購入) = -2541万円
NPV(リース) = -2359万円

計算の結果、金額の大小だけ見て割高だったリースの方が、現在価値で見ると出費が少なくて済むということになりました。

このリースの例は、家を買うか?借りるか?といった場合にも使えるケースです。DCF法を用いることで、トータル金額が安いという理由だけで家を購入せず、購入額+ローンと賃貸の家賃を現在価値で見極めることが重要になります。特に持家は頭金が大きく、売却の際に価値が大きく目減りすることに注意を向ける必要があります。 

事例3.工場建設に投資した場合の効果

次に工場建設の例を考えます。工場を建設する場合の条件と効果は次のようになっていると仮定します。

投資額 : 100億円 (工場建設には2年必要)
毎年のCF : 1億円 (操業1年目は4000万円)
割引率 : 5%
土地 : 自社保有の土地
                                            (単位:百万円)

  0年目 1年目 2年目 3年目以降 残存価値
投資額 ① -1000 0 0 0 0
CF ② 0 0 40 100 100/0.05
FCF ③=①+② -1000 0 40 100 2000
現価係数 ④ 1.00 0.95 0.91 0.86 0.86
PV ⑤=③×④ -1000 0 36 86 1728

したがって、この投資のNPV(現在価値の累計)は次のようになります。

 NPV = -1000 + 36 + 86 + 1728 = 850(百万円)

この結果を見ると、NPVは正となり投資をするという判断になります。

しかし、この判断で問題ないでしょうか?

  

投資しなかった場合の効果

DCF法でPJを評価する場合、投資先が複数ある場合はそれぞれの投資について比較検討します。投資先が複数ない場合は、投資した場合と投資をしなかった場合の比較をする必要があります。(ちなみに、投資先が複数ある場合でも、投資をしなかった場合の検討は必要になる場合があります)

上の例では、投資をした場合でしか検討していないことになります。つまり、投資をしなかった場合の検討が必要になります。

投資をしなかった場合の、投資資金の機会損失は予め割引率に含まれているので、検討する必要はありません。しかし、ここで注目すべきなのは、土地が自社保有ということです。投資をしない場合、この自社保有の土地を売却することができます。

たとえば、保有している土地の時価が1000(百万円)だった場合、土地を1000(百万円)で売却して、別に600百万円の土地を購入して、上記の条件のような工場を建設すれば、会社にとってはさらにプラスになります。

DCF法に限らず、PJの効果を評価する場合は、「実行した場合に得られるもの(失うもの)」と、「実行しなかった場合に得られるもの(失うもの)」をしっかり整理しておく必要があります。

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まとめ

DCF法を活用すると、複数のプロジェクトの収益性を全て現在価値に直して、同じ土俵で比較することができます。運用上の注意点はプロジェクトを何と比較するか?ということです。

同質プロジェクト同士の比較はわかりやすいですが、異なるビジネススキームとの比較や、投資をしない場合に発生事象との比較を忘れないようにしましょう。

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