マーケティング

ブランド戦略 意義・種類・構成要素・機能・マルチブランド戦略の解説

ブランドとは、顧客に対して一定の価値を提供していること示すものです。

ブランドの意義は顧客にとっての信頼の証といえます。

ブランドを育てるのは難しい一方で、一度育つと貴重な経営資源となります。

ブランドには大きく、ブランドの種類、構成要素、機能、育成・マネジメントという観点があります。

この記事では、それらを含めたブランド戦略の必要性とあり方、ひとつの会社が複数のブランドを持つマルチブランドについて解説していきます。

ブランドは、マーケティング戦略を考える際にも重要な要素となってきます。

ブランド戦略が必要な理由

以下の記事にも書いたとおり、モノが飽和状態になってきていると言われる近年において、多くの企業がモノ売りからコト売りへの転換を迫れれています。

モノの価値ではなくコトの価値を伝える重要性近年は物があふれるようになっていて、差別化された製品でないと売るのが難しいという時代になってきています。 そうした背景もあって、モ...

そうした中で、ブランドも顧客に提供するコトの価値を代弁する意味合いとしてのウェイトが大きくなってきています。これは単に製品の機能や品質に基づくブランドという意味合いだけでなく、共通の信念や価値観といった感情的な関係へと進化を意味しています。

アメリカの例ですが、2017 Cone Communications CSR Studyの調査によると、何と87%の消費者がブランド価値に基づいて製品を購入すると回答しています。

これだけブランドとそれに基づく重要視されている中で、単にロゴマークや製品の機能をアピールするだけでは不十分で、ブランドの持つ意味合いを整理して顧客に伝えるための戦略が必要になってくるわけです。

ブランドに対する間違った認識

  • 商品名、ネーミング、スローガンである
  • 広告宣伝により構築されるもの

ブランドに対する正しい認識

  • ブランドとは、単なるネーミングではなく、上述のように顧客ターゲットに対する一定の価値を提供するもの
  • 顧客が経験する接点によって構築されるもの

ブランドの種類

ブランドには大きく3つの種類があります。

コーポレートブランド

会社名そのもののブランドです。たとえば、トヨタやリッツカールトンなどは会社名そのものがブランドとして認知されています。

製品ブランド

製品に付与されているブランドです。たとえば、ウィンドウズやウォークマンなどが挙げられます。

成分ブランド

最終製品に内在されている部品に対する。たとえば、シマノやインテルが代表例として挙げられます。

ブランドの構成要素

ブランドには大きく実利的な価値と、情緒的な価値があります。

ブランドの実利的価値

ブランドの実利的価値とは、品質や機能といった、その製品がもたらす直接的な便益につながるものです。

昔はブランドにとって重要だったのは、この実利的価値でした。しかし、時代とともに物が飽和してくるつれて、次に説明する情緒的価値に重きを置かれるようになってきました。

ブランドの情緒的価値

ブランドの情緒的価値とは、そのブランドを持つことによって得られる体験的なものを示します。

たとえば、高級カバンや高級車のように、そのブランドを持つことがひとつのステータス・シンボルになる場合は、それは情緒的価値といえるでしょう。あるいは、軽やかさや生活における充実感といったものも情緒的価値になります。

先ほども書いたように、近年の先進国においては、この情緒的価値がよりブランドの価値として重要なものになってきました。

ブランドの機能

ブランドには提供する会社側と提供された消費者側の双方にもたらす機能があります。

提供する側の機能

  • ロイヤリティーの醸成機能(○○だから買う)
  • 価格の妥当性を示す機能(○○だから値段が高い)
  • 競合に対する参入障壁を築ける機能(○○ブランドには簡単には勝てない)
  • 企業が体現する価値観のシンボル

提供される側の機能

  • 品質保証の機能(○○だから安心、何かあったら○○は誠実な対応をしてくれる) (実利的価値)
  • 自己表現の手段となる機能(○○のバッグをもっている) (情緒的価値)
  • 企業が提供する価値観への同意の意思表示機能(情緒的価値)

この他に、ブランド認知が進むと以下のような機能(ベネフィット)を得ることができます。

  • 優秀な人材を採用できるようになる
  • 従業員のモチベーションがあがる
  • グローバルに商品を展開する際の助けになる

ブランドの育成・マネジメント

ブランドの育成には以下のような点を考慮する必要があります。

継続してブレない価値を提供すること

たとえば、ウォークマンという名のテレビや、インテルという名のスピーカーがあったり、ソニーがタイヤを作ったりすると、その製品の価値が低いことだけでなく、他の製品の信用にまで影響が出ます。

一度ブランドコンセプトを作り上げたら、そこからブレない価値を提供し続けることが重要です。

上記の例は非常に極端な例ですが、実際に大企業になるにつれて全方位的に商品を揃えるようになると、統一感のあるコーポレートブランドを保つのが難しくなるという現実もあります。

トヨタ自動車など、そうした限界にいち早く気付いた会社は、トヨタとは別のレクサスブランドのようにコーポレートカラーを全く出さないブランド政策をとっています。

ブランドの意味合いを言い続けること

ブランドマネジメントをする上では、ブランドがもつ意味合いをしつこく消費者に言い続けることも大事です。そのときに大事なのは、ブランドが持つ実利的価値よりも情緒的価値を訴えて、人の感性に響くようなメッセージを送ることです。

その製品を買ったり、サービスを受けたりすることで、ライフスタイルがどのように豊かになるのかという感性的な部分にまで踏み込んだメッセージを送ることで、よりブランドが浸透していくようになります。

ブランド戦略構築のステップ

ブランドの戦略はマーケティング・プロセスの中でも、特に上流工程であるSTPに沿って構築されます。

STPのプロセスでは、顧客セグメンテーション(S)から対象とする顧客ターゲット(T)を絞り込み、そのターゲットに対して自社をユニークに見せるポジショニング(P)を見せますが、このときにブランドに対するイメージも作り込んでいきます。

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たとえば、スターバックスは、顧客セグメント(S)の中で、少しリッチなビジネスパーソン(T)を意識していて、そのターゲットに対して落ちついて会話をしたり、読書をしたりできるおもてなし空間(P)を提供しています。

提供価値がおもてなし空間なので、それに合わせておいしいコーヒー、おしゃれで高級感があり、かつ落ち着ける雰囲気の内装で演出しています。スターバックスはそのブランドイメージを守り、ブランドの価値をどこの店舗も同じようにブレずに演出し、提供しています。

そのブランドが持つ価値観は従業員にまで浸透しており、長居をする顧客を追い出すようなことをしないことは当然で、常に笑顔で顧客が心地よくなる接客がされています。

マルチブランド戦略

ひとつの会社が、関連のない異なるブランドを持っているときにマルチブランドと呼びます。マルチブランドの目的は、会社の市場シェア全体を拡大することです。

多様な市場セグメンテーションのニーズを単一ブランドで満たすことはほぼ不可能なため、マルチブランド戦略では複数のブランドを用意して、顧客にそれぞれ軸の異なる価値を提供することになります。マルチブランドはB2BよりもB2Cでよく採用される戦略です。

マルチブランド戦略のメリット

マルチブランドを採用することで、販売ポテンシャルの拡大を期待することができます。

たとえば、ひとつの会社がより多くの販売スペースをとれる可能性があります。言い換えると、競合他社の販売スペースを少なくできるわけです。また、さまざまなブランドを試してみたいブランドスイッチャーに対しても多くのブランドを提供することができます。

組織内からの観点でみると、マネージャー間の競争を通じてそれぞれのブランドの成長を促すことができます。また、他ブランドで成功したノウハウを活用して、第2ブランドを大きな投資なしに育てることも可能です。

マルチブランディング戦略のデメリット

デメリットの一つとしてあげられるのが、ブランド間の食い違いや重複しているセグメントに起因する混乱です。こうしたことは顧客の混乱を招き、ブランドの切り替えにつながってしまいます。

加えて、顧客に対して顧客に寄り添ったブランド戦略ではなく、利益重視だと見透かされてしまう可能性があることもデメリットとしてあげられます。

こうしたデメリットは、マルチブランドの管理・運営の不備から引き起こされてしまいます。

マルチブランド戦略の例

代表例としてアメリカの消費財メーカー、プロクター&ギャンブル(P&G)があります。P&Gは23種類の製品ブランドを販売しています。たとえば、タイド、パンパース、ジレット、エース、ヘッド&ショルダーなどです。

アイスクリームと多国籍消費財会社の最大手メーカーであるユニリーバ(Unilever)も世界的なブランドも数多く生産しています。たとえば、パーシル、アックス、レクソナ、サンシルク、ドブ、リプトンなどです。

先ほど例に出したトヨタとレクサスもマルチブランドの代表例です。

これらは同一の会社名を冠して、複数の製品ブランドを持っているパターンですが、消費者から会社名が見えないようにして、複数のブランドを展開しているケースもあります。

飲食業だと、日本レストランシステムが有名です。洋麺屋 五右衛門、星乃珈琲店、卵と私、銀座咖喱堂、牛たん焼き 仙台辺見など、多数の飲食店ブランドを傘下に持っています。飲食店は飽きによる顧客離れがあるため、同じ会社の中で店舗のブランドスイッチをして新たな顧客層を獲得したり、同一エリアで異なるブランド店舗間で食材や従業員の融通したりすることも可能になります。

ホテル業での代表例としてマリオットがあります。会社名のマリオットホテルをはじめ、リッツカールトン、シェラトン、ウェスティン、ルネッサンス等の多くのホテルブランドがあります。

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